【18禁】虹小説置き場

きょ様からいただいた萌えネタでコねたを投下。 あと一歩エロまでもつれこめなくてやや不完全燃焼ですのぅ…。 リハビリ!!!

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（っとにあの親父、公私混同も甚だしいんだからっ）

第777代ローマ法王ローリィタカラダ1世の密命を受け、
悪魔祓いを行うために日本に向かう飛行機の中で、私はぶつぶつとひとりごちた。

（悪いが、最上君、ちょちょっと行って来てくれないか）

ふつう悪魔祓いを行うにあたっては、その難易度や必要性が枢機卿らで話し合われる。
厳しい審問の果てにエクソシストが選抜され、いつ、どのような方法で行うのか…等々
それは用意周到に準備されるのだ。
その手順をすっとばしてのいきなりの呼び出しだったので何事かと思ったのだけれど、
ふたを開けてみれば法王のおさななじみからのチョクの依頼というだけのことだった。
たぶん、審問会を通したら却下されるようなレベルの話なんだと思う。

（俺の幼馴染というのが、日本のある名門女学院で学長を勤めていてな…）

法王の言葉を思い返す。
その女学院で、女生徒たちが昏々と眠り続けるという、
魔物の仕業としか思えない不可解な事件が起きているらしい。
少女たちが、月にひとりふたり、奇妙な眠り病に陥るのだそうだ。
それは決まって満月の夜にはじまり、彼女たちはただ眠り続けるだけでその間衰弱もせず…
一週間ほどで目覚めるとのことだった。

（目覚めたあとは、むしろ眠りに陥る前より健康になっているらしいんだな。
しかも少女たちの間に共通の疾患がある様子もみられない）

（つまり、医学的な見地からはお手上げの状態ということですか…）

（そういう事だ）

女生徒の家族への対応に苦慮した学院側は、色んなルートでもって原因究明にあたったらしいけれど、
どのルートからもはかばかしい結果は得られなかった。
万策尽きた学院長は、藁にも縋る思いで法王に相談を持ちかけたのだそうだ。
法王いわく、おそらく間違いなく「居る」らしい。

（女性をターゲットにする悪魔で、眠りに関わるというとストレートに考えればインキュバスあたりだけど、
眠りに陥る前より健康になるってどーいうことだろ？？？）

確かに意味不明だ。
…意味不明ではあるけど…。

ふと、飛行機の窓の外を眺める。

………何というか、漠然と嫌な予感。


***


全寮制の名門校しらいずみ女学院に転入生として潜伏し、一週間。
不可解な現象は、私が潜伏をはじめてからは、一度も起こっていない。

悪魔め、恐れをなしたか…。
でも、恐れをなしていたならエクソシストである自分の存在が悪魔にばれているということで…。
だとすると潜伏の意味がないわけで…。
むしろ逆襲の可能性があるぶん厄介だったりするわけで…。

………。

寮の部屋にて、開け放った窓から木枠に肘をつき、夜空を眺める。
そこにはしたたるような満月が輝いていた。

明治時代に建てられたというこの寮は外観こそ洋風であるものの、無垢木で造られていて、
隅々まで手入れされながら月日を経たものだけが持ちうる美を湛えていた。
石造りの都からやってきた私にはとてもエキゾチックな感じ。

バチカンの抜けるような青空…硬質で美しい街並みとは全く違う、
この国の、空気までがしっとりと水気をふくんだような、紗のかかった風景。

悪魔は、何を思って、この国に来、そしてとどまっているのだろう。
この国に住む悪魔は、常のそれとは何かが違うのではないかと、根拠のない考えに囚われ…――。
ああそうか、神が違うのだ…と、ふと気付いた。

――――――そのとき。

遠くで女性の叫び声がした。


***


「　待って、待って下さい！！　」

くずおれた女生徒をよこたえ、校舎に逃げ込んだ影を追って階段をかけあがる。
屋上へ出る扉を開いて躍り出ると、大きな月を背景に　『それ』　がいた。

用務員の……敦賀さん。

いつも背中を丸めて、しょぼしょぼした様子で雑用をこなしていた長身のくせに貧相な姿が…――
ゆっくり振り返った。
掃除をする姿、花壇の手入れをする姿。日本の学生生活になじめずひとりで花壇を眺めていた私を、
用務員室に招いてお茶をいれてくれた…―――。
みそっかすな私の話をただ聞いてくれた、やさしいおじ…おにいさん…だと思っていたのに。

「　…きみ……最上さん……　エクソシストだったんだ…？　」

紺の短い法衣にプラチナのクロスを下げた私の姿を見て、彼は低くつぶやいた。
櫛の入っていないかのような乱れた髪の間から、切れ長の目が覗く。
月の光を受けて、対峙した姿は、昼のしょぼくれた彼ではなかった。

「　敦賀さん　」

その美貌―――。
痩せてやつれているものの、魔物の病的なうつくしさは少しも損なわれておらず、
むしろそれがかえって不埒なほどになまめかしさを強調していた。

「　………俺は、悪い事はしていないよ？　」

彼はやさしく笑った。
凄味があった。

「　女生徒さんたちを襲っているじゃないですか！！　」

のまれそうなのをぐっとこらえて、びしっと指をつきつけて指摘すると、彼はちいさく肩を竦めた。

「　襲ってない。誰も、衰弱していないし、死んでもいないだろう？　」

そういえばそうだ。
この魔物は、いったい…。

「　吸血鬼　」

内心の疑問が伝わったかのように、彼はうたうように囁いた。

「　…………一度も血を吸った事がないけれど、一応俺は吸血鬼だよ　」

彼は、月光をふりあおいだ。

「　満月のひかりを浴びて、ようやく永らえているていどの小物に、バチカンのエクソシストが出張ってくるとはすごいね　」

「　あ、それはあれです。法王とここの学長さんが幼馴染ってことで、いわば法王の私的なご用聞きとして、
いちばん下っ端の私が派遣されたんですよ。言うなれば派遣社員です。」

てれてれ。

「　……………　（派遣社員て）　ちょっと違うような気もするけど…　」

その目が、ふと何かに気付いたように眇められ――――彼は、じっと私を見つめた。
あらためてつくづくとお互いを見つめなおすような格好になる。
な、なんだろう。

「　…確かに、はじめて会ったときから可愛いな…と思ってはいたんだ　」

彼は、腕を組んで自らの顎に指をあて、形の良い頭をかしげた。

「　………試してみようか　」

はえ？　なにを？？？

…と、問う間もなく、大股で近寄ってきた敦賀さんに腕を取られて、引き寄せられた。
引き寄せられた…と思った瞬間、抱きすくめられた。

強い力。

甘い香り。

上から覗き込む瞳の深淵。

魔に。

魅入られる…―――――――。

ぎらり、と。 彼の目が底光りして、私を射た。
そして―――――――そして。

彼の薄い唇が、わたしのそれに熱く重ねられた。

「　悪霊退散ーーーーーんっっっ　!!!　もがっ　」

私は涙目になって、手足をばたつかせ、もがいた。
顔を背けて一声叫んだあと、頤をつかまれてふたたび塞がれた唇は、強く吸われて息もならない。
手をつっぱり、なんとか相手を押しやろうとあがいても、びくともせず、あまりのことに涙が出てきた。

どのくらい、屈辱の時が過ぎたのか…ふと重なったままの唇に笑みのふるえを感じ、
私はいつのまにかかたく閉じていた目をあけた。

月の光が振りこぼれたのかと思った。

夜の闇にきらきらと光る、金色の髪……。
覗き込むひとみの、深い緑………。

にんげんではないもの。まもの。魔の、人外の、この上ない美しさ――――――が。
艶然と。

「　見つけた　」

彼は、緑の双眸に残酷な喜色を湛えて、鮮やかに笑っていた。
獲物を前にした肉食獣のような物騒で剣呑なオーラが漂う。
何が起こっているのか意味がわからない。

「　生まれた時からずっと探していたよ、俺の………　」

俺の？

「　ゴハンさん　」

はえ？

言わせも果てず、彼の手が伸び、私の両手をとって、屋上のフェンスに貼り付けられた。
そうして両手に息を吹きかけられると、縫い付けられたように動けなくなった。
そこでようやく私は、事態の深刻さに気付いた。
これはっ…非常事態なのでは!!!!!!

「　なにをするんですっ、き、吸血鬼のくせに！エクソシストに向かってなんてことをっ　」

ああ、私の馬鹿。やすやすと拘束されてしまって、クロスをかざすこともままならないなんて。
聖水だって懐に入ったままで…法王に怒られるぅ～！!!

「　何をするって……吸血ですよ？　」

（　イヤーーーーーー!!!!　）

冷や汗がどっと出た。
ぶんぶん頭を振ってじたばたしていると、魔物は少し視線を緩めて微笑んだ。

「　だいじょうぶ。俺の放浪はこれで終わりだから、もう眠り病は発生しないよ。キミの仕事は完遂されたんだ　」

？

「　俺にとって吸血とは、愛の儀式だから…―――唯一の相手を探して、放浪していたんだよ―――――　」

はに？

「　きみを探して、随分飢餓に苦しんだんだ　」

曰く、敦賀さんは、愛する相手からしか吸血できない種族の末裔だそうな。
生まれて、生まれたところを遠く離れて、たった一人流離って、長い間をひとりきりで。

長身の、やつれた吸血鬼。しょぼくれた背中を丸めて、たったひとりぼっちで何百年もの時を。

この人だろうかと触れるたびに、相手は眠りにつき、敦賀さんから精気を奪っていった。
間違うたびに、敦賀さんはしょぼくれて、貧相になっていった。
おなかを減らして…いつしか手当たり次第に試すようになって。

………胸が痛んだ。

痛んだけど……。

だからと言って。

「　吸血とか、無理ですから!!!!まじやべっすから!!!!自分、エクソシストってことは神に貞操捧げてますから!!!!　」

「　………今日からそれは俺に捧げるといいよ（最上さん、キャラが壊れて誰だかわからなくなっているよ）　」

言いながら、魔物は私の法衣の前をゆっくりとした仕種でひらいた。
NO―――――!!!!!　のぉーーーーー!!!!



「　…いただきます　」

耳元で、魔物が囁いた。
甘く、堕落の魅惑を秘めて。


<了>