【18禁】虹小説置き場

■それは柳の下からはじまった　キョコ視点

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「………またですか………」
　椹さんが満面の笑みで差し出した企画書を見て、私はどんよりとつぶやいた。
　腫れ物に触るような感じで書類を受け取り、おそるおそる字面を目で追う。
　なんど見直してもやはり共演者の欄には『敦賀蓮』と記されていた。
「前回の、千夜一夜のＣＭで、商品が爆発的にヒットしただろう？　カインドーさんとしては、今後ふたりを自社製品のＣＭキャラクターとして、一つのシリーズを任せるような形で採用していきたいらしいんだ。これは最上さんにとって凄く良い話だと思うよ」
（………柳の下にドジョウはそう何匹もいないのではないでしょーか…）

　千夜一夜ＣＭとは…。カインドーさんが夏に発売した新製品、発泡酒『千夜一夜』のコマーシャルのことだ。
　私は黒崎監督のもと、商品名でもある『千夜一夜物語』をモチーフに、シェヘラザードの役をもらい、敦賀さん演じる美貌の王と初共演した。
　ウッカリ共演してしまったばっかりに、敦賀さんのしたたるような色気と、暴虐な古代の王が憑依したかのような大魔王の降臨にあてられ、灰になった記憶も生々しい。
　なのに出来上がったＣＭは、脱力の影絵仕立てで…――――。
　つまり、敦賀さんはともかく、私があのＣＭにどれだけ貢献できたかというのは甚だあやしいものなのだった。
　だからこそ、このオファーは確かに良い話ではあるのだけれど…。
「だいじょうぶ、今度はノンアルコール飲料のＣＭだから、また影絵って事はないと思うよ！」
　椹さんが苦笑しながら請合ってくれる。
　心を読まれたようで、ちょっと恥ずかしい。
　それもあるんですけど、共演者が敦賀さんで、監督が黒崎監督というあたりに、なにか言い知れぬ不安を感じるんです…―――とも言えず、私は流されるままに、そのうますぎるオファーを受けることになった。

　私はその時、もう一人の共演者の欄が『未定』となっている事に、もっと注意を払うべきだった。
　それが指す事の意味をあらかじめ知っていたとしたら私は、きっとこの仕事を請ける事はなかったと思う。

　………激甚たる恐怖は、すぐにやってきた。