2011.01.05 (Wed)
【つるかめ物語 邪ま篇05】
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鶴の王とキョーコを引き離し、どうしたことだ、と蓮は躊躇う。
おのれと同じ人外の存在が、キョーコに触れ、求婚したのを見た瞬間、久しく忘れていた黒い部分のリミッターが外れていくような感覚を覚え、彼はそんな自分の感情を持て余した。
「蓮、どうしただ? …どこいくだ?」
後ろをよたよたとついてくるキョーコが、ふと忌々しくてならなくなる。
そんな蓮の心情を知らないキョーコは、いつもと違う蓮の様子を神なるものの気まぐれと解釈して、ふと後ろを振り返った。
「………」
「……なんだ」
蓮は、それを鋭く見咎めた。
「うん? ああ、だってあの鶴、怪我してたんだよ、だからちょっと心配だっただけ」
キョーコの屈託のない言葉で、蓮の額にびりびりと癇性の筋が立った。キョーコにしてみれば、人外の存在は蓮ゆえに気安い存在で、また、気遣わしい存在でもあった。蓮あっての思いやりである。
そうしたキョーコの気持ちは、しかし、蓮にはわからない。むしろそのキョーコの態度は蓮の勘に障り、裏目に出た。
鶴の化身の少年の美しさと奔放さも、この場合裏目にはまる一端を担っていた。井戸横に佇む二人の姿は一幅の絵のようで、なにがなし似つかわしいもの同士にも見えたのだ。
なぜか。
(………)
その瞬間まで、蓮にとってキョーコは、庇護すべきこどもであった。
また、鶴の化身もその少年姿通りの齢では有り得なかったが、蓮よりは随分と年若い神であった。
少年と少女の邂逅に、ひとり取り残されるような感覚を覚え…
(なるほど、これは妬気か)
蓮は、胸を焼く不快感のもとにゆきあたった。
黙りこんだ蓮を不思議に思って、キョーコはかれを振り返った。
暗闇の中、白目が光り、こわいような真剣さで自分を見つめる双の瞳に、胸を衝かれて息を止める。
そしてキョーコは、いままでの蓮にない異質な雰囲気に怖気づいた。
「蓮…?」
「…考えてみれば」
蓮は、うっそりと笑った。
それはどこか、苦笑を孕んでいるようだった。
「……おまえは俺の贄だったな」
その、すらりと伸びた足も、細い腕も。
黒目がちの、大きな目が、長い睫にふちどられて…。頬も唇も、紅をさすまでもなく、ふっくらと上気して可愛らしい。
思いついた蓮は、舐めるようにキョーコをみつめたまま、蛇族の習性そのままにちらりと舌先で唇を舐めた。
本能的に怯えたキョーコがあとずさる。
絶対的な信頼をおいた庇護者が、何か別のものにすり替わってしまうような心もとなさがあった。
また、蓮のそのようすには、既視感があった。
かつてキョーコを襲った村の少年たちの、情欲に浮かされた熱の篭る目。
雄の猛々しい…。
「蓮」
縋るように、キョーコは囁いた。
「………こっちにおいで、キョーコ」
するり、と差し招く、優雅な白い手。
少年たちと違うところは、キョーコの視線が蓮に吸いつけられたまま離れないところにあった。
なんども抱きしめられて一緒に眠った。
大きな体と、なめらかな肌。ひんやりとすべらかであるにも関わらず、あたたかい懐にくるまれ、大きな獣にじゃれつかれるように唇を寄せられた。
それに応えるように、キョーコは蓮にしがみつき、頬擦りして、無邪気に吸い付いたりもした。
しかし、蓮は大きな獣でも、飼い亀でも、親でも兄弟でもなかったのだ。
蓮が発散する色気のうちに異性を感じて、キョーコはわずかに瞳を潤ませた。
それは、俗に、魔に魅入られる…といった状態だったかもしれない。
蓮が音もなく近寄り、キョーコの首裏を掴み、引き寄せて……。
***
(……いやだ―――)
砂浜の岩陰で、もつれ合う二つの身体があった。
月あかりが煌々と海を照らし、星が降るように瞬く下で、寄せては返す波音を耳に、その清々とした背景に合わぬ淫蕩さで、激しく交わるふたつの身体があった。
どうしてこんな事になったのかわからない。
砂まみれになった、夜目にも白い華奢な身体をあますところなくひろげられて、キョーコは甘すぎる喘ぎを漏らしていた。
これはなんだ。これはいったい。
蓮のいやらしい指で着物の前をひらかれ、からだの線を撫でるように抱き寄せられて、くちづけを受けた。
腑抜けになってしまったようになされるがままのキョーコに、少しだけ蓮が不審そうな目を向けると、我に返ったキョーコは蓮の腕の中を逃れようと暴れた。
それでかえって気を煽られた蓮がキョーコをとらまえ…。
「………痛いか、キョーコ」
はじめてのキョーコのそこにふかく自身を穿ち、満足げに律動を繰り返して蓮は甘い息をついた。
絡まりあった腰を引かれて、キョーコは小さく掠れ声をあげて背を反らす。
「いま、おまえと俺は、まぐわって居る…」
みだらな粘液の音をたてて、蓮はキョーコをやさしく甚振った。【ルビ『甚振った』→いたぶった】
「おまえの好きなところは、ここだ…」
穿たれて思う様揺さぶられながら、意地悪な指先で秘所を翻弄され、キョーコは、自分でも思わぬ嬌声をあげた。
「…もっともっと、教えてやる。閨の全てを、おまえの体に」
淫らな囁きに、キョーコは涙に濡れた顔を小さく横に振った。
「…やだ…こんなの、や…」
「厭はない」
にべもなく言い放ち、蓮はキョーコのからだを入れ替えて尻を突き出させ、出し入れを繰り返しながら後ろから小さな乳房を揉みしだいた。
先端の突起を擽りながら、耳に口をつけて囁く。
「忘れるな、おまえは俺のものなのだからな」
そのまま、キョーコの肩を押さえつけて、前傾させ、尻を高くして激しく腰を振ると、ひと際大きく胴震いをし、キョーコのなかへしどとに放出した。
それから蓮は蛇淫の性のまま、気の済むまで飽かずキョーコを甚振った。【ルビ『甚振った』→いたぶった】
ぐったりと力の抜けた少女のからだから自身をひきぬき、よこたえ、ひろげて、破瓜の血とおのれの精液に塗れたそこをうっとりと満足げに眺める。
恥らったキョーコが小さく身じろぎし、足を閉じようとするのへ、膝頭を甘噛みして止めた。
「おまえは俺のものだ、どうして思いつかなかったのだろうな、深く静かな深海に、おまえを閉じ込める龍宮を造ろう。時を止めて、いついつまでも睦まじく、共に永劫を暮らすのだ…」
かき口説く声は行為とは裏腹に、あくまでも甘く、やさしかった。
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