2011.01.05 (Wed)
【つるかめ物語 邪ま篇07】
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「まあ、結果オーライってことで」
白い鶴の王は、苦笑いを浮かべながらもどこか小気味よさそうに言った。
嵐の去った海辺の砂浜に、ふたつの秀麗な美が佇む。
人の姿を取った人外の王たちは、戦った間柄が嘘のようにどこか牧歌的な雰囲気を漂わせた。
憮然とする黒い龍の王が、松太郎をねめつける。
「そもそもおまえなんぞがあらわれねば、こんなことにはならなんだのだ」
憤懣やるかたないといった様子で、懐をかばうように撫でる。
「…俺のお陰で、なるようになったともいえるだろうが」
悪びれない白鶴の言葉に、黒龍が険悪な目つきを見せる。その時、蓮をなだめるように、懐が蠢いた。
「おお、大丈夫か、キョーコ」
蓮が衣を合わせた懐を探って覗き込むと、キョーコがひょっこりとこぶし大の頭を覗かせた。
白鶴の一撃で肉体を失ったキョーコは、その魂を蓮の砕いた龍の珠と結合し、結晶化することによって、かろうじて『存在』を取りとめたのだ。
「大丈夫だよ、蓮」
ふよふよと浮かぶ足のないキョーコの、小さな幽霊然とした姿を見て、蓮はほっとしたもののどこか切なげに吐息をついた。
「…こんな有様では、まぐわいもならぬではないか…」
本当に残念そうに言うのに、そこかよ、と思わず白鶴が突っ込む。
「いいじゃねえか、生きてるんだから」
「おまえが言うな」
キッとにらむのに、キョーコが慌てて蓮をなだめにかかる。ごめんな、と繰り返す小さな存在を流し目で捉えた蓮は、仕方なさそうにその頭を撫でた。
「…まあいい」
指で顎下をくすぐるようにして、蓮はキョーコに唇を寄せた。おとなしくそれを受けるキョーコが、小さく頬を染める。
確かに、忌々しい鶴の王が言うとおり、キョーコは蓮のいのちと結びついたのだ。
―――もう、永劫に離れる事はない。
それを思うと、蓮の心はかつてないくらいに平穏になった。
「…そのうちに変化の術も教えてやろう」
機能を止めたキョーコの肉体の全ては、その血の一滴に至るまで、結晶化して龍の珠のうちにある。
つまり、おそらくは、
(肉体の甦りも、成るに違いない)
悪戯そうに微笑んで、蓮はひとりごちた。
いつか、前のままのキョーコをも取り戻せるだろうことを、彼はこっそり確信していたのだ。
でも、今は。
あどけない顔で蓮を見るキョーコに向かって、蓮は微笑んだ。
いじらしい、この小さな命を、ただ慈しもう…と。
蓮の穏やかな表情を見て、キョーコは彼への愛しさをあらたにした。
ふたりなら、夜も行ける、と彼は思った。
もう何もこわくないと、少女は思った。
…そうしてふたりは、身を寄せ合って、互いのぬくもりを確かめあった。
<了>
to be 健全篇
※おつきあい下さった方に、心からの感謝を込めて……(豚)
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